【バックネット裏の番人】

8月13日(土)

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ラガーさん、再び甲子園から姿を消す 本人が明かした「チケットが高すぎる!」の叫び

今春のセンバツでは、久しぶりにバックネット裏にもその姿があったが……

今春のセンバツでは、久しぶりにバックネット裏にもその姿があったが……

写真2枚

この夏、甲子園のバックネット裏に近畿圏の少年野球チームが無料招待される「ドリームシート」が復活した。その一方で、再び“ある男性”の姿が中継映像から消えた。1999年頃から2015年まで蛍光イエローのキャップにラガーシャツを着て、当時は自由席だったバックネット裏最前列の「A段73列」を定位置にして全試合を観戦、テレビ中継にも映り込んでいた通称“ラガーさん”こと善養寺隆一氏(56)だ。

コロナ禍による観客の入場制限が緩和された今春のセンバツにおいて、ラガーさんは2019年夏以来となる聖地での観戦を謳歌していた。ドリームシートが中止されていたために、かつての定位置のチケットを「正規ルートでたまたま取れた」と話し、テレビ中継に映り込んでいた。とはいえ、インターネットで購入するチケットが、そうそう希望する座席であるとは考えにくい。

その後、ラガーさんの姿はセンバツの中継から消えた。バックネット裏にあたる中央指定席でも、端の席で観戦することが多くなり、観戦客が少なくなった夕刻の試合などに、空いていた最前列にこっそり移動しては、高校野球を愛するファンの“通報”によって警備員から退場を命じられていた。

甲子園でラガーさんを探すのは容易だ。ラガーシャツに蛍光カラーの帽子をかぶった男性など、そうはいない。記者席からであれば、満員の甲子園でも、ものの1~2分で見つけられるのだが、今夏はどうも見当たらない。そこで連絡を入れた。

「甲子園には行っていませんよ。最前列ではない席で観戦しても、前の人の頭で見づらかったり、柱とか、ワイヤーなどによって見にくい席がある。一塁側や三塁側に近い端っこの席だと、ピッチャーの球筋が見えない。高校野球観戦はテレビに限るね、本音言うとさ」

前の席の人の頭を気にする一方で、ラガーさんはマウンド上の投手の視界に入る位置にド派手な出で立ちで座っていた。

「オレは人のことまで考えてないから」

あっけらかんと話すラガーさんだが、流石に「テレビ観戦に限るね」が本音とは思えない。質問を重ねると「(生観戦とテレビ観戦のどちらを好むかは)個人差があるからいいんだけどさ。オレはやっぱ、ド真ん中で見たいんですよ」とも話した。

日本高等学校野球連盟は、「暑さ対策、感染症対策の費用がかさむ」ことから、今夏より甲子園の観戦チケットを大きく値上げした。「大人1枚」のチケット代はバックネット裏の中央指定席2800円から4200円に、1塁・3塁内野指定席が2000円から3700円に。アルプス席は800円から1400円、指定席となった外野席は500円から1000円となる。席種によっては2倍の値上げだ。

「正直言うとさ、チケット代が高すぎる! インターネットの注文でさらに手数料もかかってしまう。雨天順延となったら、払い戻しをして、チケットを取り直さないといけないでしょ。本音言うとさ、面倒臭くなっちゃった。以前のような通し券に戻してほしいね」

「この値段でこれかよ」と思っちゃった

かつてラガーさんは、バックネット裏にいち早く駆けつけられるように甲子園球場の8号門入り口付近に寝泊まりし、開門と同時に自由席だった最前列に駆け足で向かっていた。ところが、2018年より中央席が指定となり、無料だった外野も有料に。そして、自由席を求める長蛇の列を避ける目的もあって、現在は全席が指定席となった。

そうした状況下で、ラガーさんもかつてのように野宿することが難しくなり、甲子園を全試合観戦しようと思うと、20万円から25万円近い費用がかかってしまう。

「(今春の)センバツでは甲子園近くに1泊3000円で民泊した。その民泊料金も、今年の夏は値上げすると言われたんだよ。それにさ、中央指定席でも、端のほうの席だと、『この値段でこれかよ』と思っちゃったんだよね。悪いけど、10年以上、オレは最前列で高校野球を見てきた。やってらんないよ。だからセンバツでは、観客が少なくなると、最前列に移動しちゃってた。誰もいないからいいかなと思っちゃったんだよね。それはすみませんでした」

毎年、ラガーさんは8月13日の誕生日を甲子園で迎えていた。57歳の誕生日は、自宅のテレビの前で過ごすことになるのだろうか。家業であった印刷業を細々と続けながら、甲子園観戦を続けてきたものの、その家業の経営にも苦労があるといい、大阪に長期滞在するのは簡単ではないだろう。

「本音言うとさ、このチケット代金は常識外! だからといって、『引退』とは書かないでね! この夏だって、甲子園に行くことがあるかもしれないから」

そのうち、ふらっと甲子園にやってきては、テレビに映り込もうと懸命になるラガーさんがいるかもしれない。

■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)

【著者プロフィール】1976年、宮崎県生まれ。2016年に『永遠のPL学園』で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。新著『甲子園と令和の怪物』(小学館新書)では、ロッテ・佐々木朗希の大船渡高校時代の岩手大会決勝「登板回避」について、当時の國保陽平監督の独占証言をもとに詳細にレポートしている。

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