かつて、1994年米W杯優勝時のブラジル代表キャプテン、ドゥンガが、「ワールドカップはその国のサッカーの総力が問われる」と語ったことがある。
本大会に向けてどのような日程で親善試合を組むのか、合宿地をどこにするのか、時差調節――。こうしたさまざまな要素がピッチの中に影響する。短期決戦であるW杯では、ピッチの中の11人だけでなく、サポートを含めた力が問われる。だから、この大会で優勝できる国は限られているのだ。
試合前、コートジボワールのエースFW、ドログバは足の付け根に痛みを抱えており、100%ではないと報じられていた。さらにもうひとりの中心選手、マンチェスター・シティーの今季プレミアリーグ優勝の立役者、MFヤヤ・トゥーレは、負傷で直前の親善試合を欠場していた。
日本代表メンバーは史上最強であり、コートジボワールに勝てそうだという雰囲気があった。ところが――。
ヤヤ・トゥーレはフル出場。所属クラブで見せるプレーには程遠かったが、自分の仕事を最低限こなした。そして何よりドログバだ。
試合が行われたレシフェのような高温多湿の場所では、いかに体力を温存し、勝負どころで力を出すかが肝である。同じような気温のリオで活躍した、かつてのブラジルの名選手、ロマーリオはその手のプレーの達人だった。そして、途中出場でピッチに姿を現したドログバはその通りのプレーをした。
ドログバが「本調子ではない」との報道は、日本代表選手の頭のどこかにあっただろう。彼を軽く見ていた日本代表と、調子が良くないときには何をすべきかはっきりと分かっていたドログバ――。彼が登場した段階でこの試合は勝負あった。
そして日本代表は、湿度の高いところでの戦い方を完全にミスした。ブラジルのリオなど暑いところのリーグは基本、中盤ではあまりプレスをかけない。ただ、いわゆるバイタルエリアは堅く守る。日本代表の場合は逆。暑いところでの戦い方を選手たちが選択できなかったという感じだ。
ワールドカップは世界のトップが集まるだけに、ちょっとした差が勝敗を分けるのだ。
文・田崎健太(ノンフィクション作家)
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